77 / 259

第一章・77

 にじむ涙をやり過ごそうと頭を上にあげた明の目に、金色に輝く光が数点入ってきた。  バラの巨木の梢から星空に紛れてゆっくりと降りてくるそれは、しだいに数を増やしていく。 「蛍、のわけねえよな」 「ん?」  愛も気づいたらしい。  ふたりして上半身を起こすと、金色の光はゆるゆると円を描きながら目の前に下りてきた。  明の蟹座の大魔導衣が激しく共鳴している。  やがて金色の光はひとつに集まり、はっきりとした形を成した。 「大魔導衣の形……魚座の魔装束だ」  蟹座の大魔導衣の隣で、光に包まれた魚座の大魔導衣は優しく輝いていた。  高低と強弱の違うふたつの魔装束の響きはすぐにひとつに溶け合い、美しい和音を奏で始めた。 「これが、魚座の大魔導衣」  愛はいまひとつピンときていないようである。  それもそうだろう。  今まで生きてくることで精いっぱいで、魔装束を手に入れて大魔導士になるなんて未来予想図など描いたこともなかっただろうから。 「愛、身に着けてみろよ」 「どうやって?」  その言葉が終わるか終らないうちに、光は大きく弾けて愛の身を包んだ。  魚座の大魔導衣は、確かに愛を持ち主に選んだのだ。  彼はもう、棘のないバラではない。  黄金に輝く無敵の棘を手に入れた。  その棘は、触れるものには容赦なく切っ先を向けるだろう。

ともだちにシェアしよう!