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第二章・2

 身支度を整えた二人が宿舎を出ると、玄関に 柊一が待っていた。  一緒に寝るところまではいかないが、やはり彼なりに愛の事は気になるらしい。 「おはようございます。冬月様」 「おはよう、愛。よく眠れたか?」 「はい。ぐっすりと」  そう返して微笑む愛を、柊一は複雑な思いで見つめた。  知り合って一ヶ月にもなるのに、愛はまだ自分に対して敬語を使う。  日曜日には明も併せて三人で釣りに行ったりして遊んでいたが、いまひとつくだけた仲になれないことが、柊一の心の隅にいつも引っかかっていた。 (お前、何だってまたウソつくんだよ。ほとんど寝てねえじゃねえか) (いいの!)  愛と明のヒソヒソ声も、耳のいい柊一には全部聞こえている。    こういうところも、引っかかる。  明にはすべてをさらけ出している愛なのに、どうして自分には繕ったことを言うのか。  二人に気付かれないよう、柊一は小さくため息をついた。  三人で一緒に歩いてはいるが、二人と一人、という見えないラインが引かれているかのようだった。

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