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第二章・7

 夜の座学を終え部屋に戻った愛は、今度は素直にシュークリームをほおばった。 「少し固くなっちまったな」 「でも、おいしい。ありがと、明」  ご機嫌なところを申し訳ないが、明は愛に柊一の件を切り出してみた。  案の定、柊一の名前を聞いただけでも愛に緊張の色が走った。 「苦手なのか? 柊一の事」 「苦手だなんて。どっちかって言うと、憧れ?」  強く、正しく、清廉な柊一は、自分にはない物をすべて備えているように愛には感じられていた。  あんな風になれたら、どんなにいいだろう。  せめて、あんな人の傍にいるにふさわしい人間でありたいのだ、と愛は明にぽつりぽつりと語って聞かせた。

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