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第二章・14

 もどかしい、と感じているのは愛だけではなかった。  柊一は柊一で、明ほどではないにしろ何か愛が笑顔になれるような話題を必死で考えていた。  そこで思いついたのが、柊一にとっては名案で、愛はとっては最悪の話題だった。 「そういえば、愛はここに来る前はどこでどんな暮らしをしていたんだ?」 「え。あの、それはその、修行地で先生にいろいろ教わってました」  愛にしてみれば巧い返事ができたのだが、柊一が訊いているのはそんな事ではないというのはすぐにピンときた。  果たして、柊一は重ねて問うてきた。 「いや、修行に入る前の話だ。俺は施設にいたんだが、お前はどうだ? 家族はいたのか?」  家族。  愛にとって、最も縁遠い単語だった。  人には、お父さんやお母さんがいるという。  見たことも聞いたこともない自分の家族の話など、できるはずもない。 「えっと。そう、お花屋さんで働いていました」  知恵を振り絞って口にした言葉は、お花屋さん。  かつて唯一の心の慰めだった、ボロボロの絵本を愛は思い出していた。  小さな町の不幸な人を、いろんな花を使って幸せにするという不思議なお花屋さんの話だ。 「家族で花屋か。いいな」

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