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第二章・15
柊一は笑顔を返してくれたが、愛にはそれが後ろめたかった。
取り繕うように、スープをひとさじ口にした。
ひとさじのスープに、少しだけ口をつけ一息つく。
さらに二口、そして三口。
ひとさじのスープを飲み干すのに、愛は5口の時間を要するのだ。
大きく息を吐き、次にジャガイモをつつく。
フォークの先に、これまた虫が食べるくらいの小さなジャガイモのかけらをのせて口にする。
それが愛の精一杯なのだが、柊一はもどかしくてしかたがない。
「思い切って一口で食べてみろ。よく噛めば、喉に通るぞ」
そう言って、柊一は皿に乗った肉をフォークでひょいと指し示した。
肉。
よりによって、肉。
愛が一番苦手な料理だ。
だが、柊一のいう事にイヤとは言えない自分がそこにいた。
言われたように、思い切って一口で頬張ってみた。
(うっ)
「そうだ。よく噛んで」
愛は、言われるまま肉を噛んだ。
ダメだ。やっぱり気持ちが悪い。
その臭い、舌触り、歯ごたえ、どれをとっても不快でしかなかった。
涙までにじんでくる。
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