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第二章・16

「ううっ」  愛は、思わず手で口を覆った。 「ダメだ、愛。飲め、飲むんだ」  柊一の励ましの言葉は、逆効果だった。  昨晩の気味の悪い男の言葉が、思い出された。 『あぁ、出るよ、出るよ。飲んでね、全部飲んでね!』  次の瞬間、愛はいままでコツコツと胃の中へ運んでいたものを全て吐いてしまった。 「岬さん、大丈夫ですか!?」  驚いて動けない柊一の代わりに、即座に現れた奥が愛の背中をさすり始めた。 「いいんですよ。全部吐けば楽になります」     背中をさすりながら、奥は責めるような眼で柊一を見た。 「さっきからハラハラしながら見てたんです。あんまりじゃないですか。嫌がるものを無理に食べさせることないじゃないですか」  ここは空気が悪いですから外へ出ましょう、と奥が愛に肩を貸しながらドアの方へと去っていく姿を、柊一はどうすることもできずにただ眺めていた。

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