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第二章・17
気の利いた者が、素早く新聞紙やバケツ、雑巾などを持ってきた。
それでようやく、柊一は愛の残した吐瀉物を見た。
固形物はほとんどない。
薄い胃液にほんの少しのパンやジャガイモ、豆などが混じる程度だ。
トレイには、まだたくさんの料理が残っている。
『嫌がるものを無理に食べさせることないじゃないですか』
奥の言葉が思い出された。
無理強いするつもりはなかったが、ここまで愛を追い詰めることになっていようとは。
とりあえずその場は他人にまかせ、柊一は医療所へと向かった。
もしかして、奥は愛を連れてそちらに向かったかもしれない。
しかし、そこに二人の姿は無かった。
柊一はしかたなく不安を抱えたまま立ち去ろうとした。
「ちょいと、冬月」
自分を呼び止める声がする。女の声だ。
振り返ると、そこには女医の瀬戸内(せとうち)が立っていた。
「何でしょう。急いでるんですが」
「岬 愛の事なんだけど」
愛の事ならば、話は別だ。
柊一は瀬戸内の方に向き直った
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