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第二章・23

 稗田の言葉にしばし呆然となった柊一は、ゆっくりと愛に眼を落とした。  うずくまり、両手で両の頬を押さえて小さく震えている。 「お前、あの時は花屋にいた、って」 「ごめんなさい!」  ごめんなさい、嘘ついてごめんなさい、と愛はますます小さく縮こまった。  その姿があまりにも痛ましく、柊一は愛の肩に手を置いた。  途端に、その手は振り払われた。 「触らないで!」 「愛」 「汚れた者に触れると、あなたまで汚れてしまいます」  あなたには知られたくなかった、と小さくつぶやき、愛はふらりと立ち上がった。  よろめく体を抱き留めると、ゆるやかに押し返してきた。  その眼からは、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれおちている。 「私は、あなたのように清い人の傍にいてはいけない人間なんです」  のろのろと柊一から遠ざかる愛の後姿を、ただ見送った。  かける言葉が見当たらない。  どうしていいのか解からない。

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