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第二章・24

 愛の姿が視界から消えた後、柊一はその場に座り込んだ。  先程まで、愛が座っていた場所だ。  ここに座れば、愛のいた場所に座れば、自分は汚れるのだろうか。  否、断じてそんなはずはなかった。  柊一は、出会ってから一ヶ月の間、愛と過ごした時間を思い返した。  優しい笑顔、明るい笑い声、豊かな心。  どこが汚れた人間だ。  誰が、何を持ってそんな事を言うのか。 「大人だ」  柊一は声に出してつぶやいた。 『大人と眼を合わせようとしないんだ』  瀬戸内の声が思い出された。  愛は、風俗でさんざん大人に酷い目にあわされてきたのだ。  だから、自分を汚れた人間だなどというのだ。  そして、汚したという者は大人であり、おまえは汚れているのだと吹き込んだのもやはり大人なのだ。  大人と眼を合わせない愛。  彼の、そんな気持ちが今ようやく柊一にも解かった。

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