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第二章・34
確かに一時的には愛も喜ぶだろう。
だが、心の奥底の記憶は消えやしない。
それどころか、その鉢植えを見ただけで、忌まわしい思い出がよみがえってくる恐れすらある。
だが柊一は、そうではない、と続けた。
そうではないが。
「今、ここでお前に話すのは、その、なんだ、少し恥ずかしい」
「は?」
そこまで言うと、柊一はぐるりと勢いよく後ろを向き、木陰に用意しておいた花の苗を猛烈な勢いで、できたばかりのいびつな植木鉢に植え替えはじめた。
「ちょ、おい! そんなに乱暴にしたら、根が傷むだろ!」
柊一はもう何も言葉を返さず、大急ぎで鉢植えをこしらえると、それをかかえて駆け出した。
まったく、本当に何を考えているか掴めない男だ。
だが、先だってのこともある。
柊一がまた不用意な言葉で愛を傷つけないよう、防衛線を張らねばならない。
明は、走り去る柊一の後を追った。
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