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第二章・36

「愛、俺と一緒にこれを売らないか?」  そう言う柊一の顔は、耳まで真っ赤である。 「今度の蚤の市で、こういう鉢植えをたくさん作って、俺たちで花屋さんをやらないか?」  花屋さん。  愛は頬を染め、大きく息を吸った。  憧れの、お花屋さん。  ボロボロの絵本の中で輝いていた、小さな町の不思議なお花屋さん。  自分が、そのお花屋さんになれるのか。  愛は、もう悲しそうな顔はしていなかった。  その眼は、きらきらと輝き始めていた。  ぷッ、と吹き出した後、明は腹を抱えてげらげらと笑いだした。 「花屋!? お前が花屋? その顔で花屋!?」  堅物の石頭なんだから、石屋はぴったりだと常日頃思っていた柊一が、突然花屋をやるという。  これは大いに笑える話だ。  明は笑って笑って、涙をにじませるほど笑った。 「……だから、恥ずかしいと言ったんだ」  明に笑われるであろうことは百も承知だった、柊一の花屋の提案だった。  耳どころか、髪の毛先まで赤くなってしまったような気持ちの柊一は、その笑い声を聞いているうちにだんだんと後悔してきた。

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