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第二章・43
「愛」
柊一が穏やかな声で話しかけると、愛はすがるような眼をした。
不安気な瞳。顔色も良くはない。
「愛、確かにここは大人でいっぱいだ」
愛は、ぎょっとした顔で柊一を見た。
大人が苦手だという事を、知っているのだ。柊一は。
「だけど、大人の全てが悪い人ばかりじゃない。いい人だっているんだ。大丈夫。俺が、俺たちがついてる。ちょっとだけ、勇気を出すんだ」
かすかに微笑んでうなずいた愛の横に、柊一は寄り添って腰かけた。
明は、できるだけ毛並みのいい人間を選んで客引きを始めた。
「そこの綺麗なお姉さん、あなたにふさわしい美しい花はいかがです?」
清潔な身なりの女性が、鉢植えとそのそばに丸くうずくまっている愛に眼をやった。
「綺麗だなんて、お上手ね。あら、かわいい花屋さん」
愛は、女性を見上げた。
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