121 / 259

第二章・43

「愛」  柊一が穏やかな声で話しかけると、愛はすがるような眼をした。  不安気な瞳。顔色も良くはない。 「愛、確かにここは大人でいっぱいだ」  愛は、ぎょっとした顔で柊一を見た。  大人が苦手だという事を、知っているのだ。柊一は。 「だけど、大人の全てが悪い人ばかりじゃない。いい人だっているんだ。大丈夫。俺が、俺たちがついてる。ちょっとだけ、勇気を出すんだ」  かすかに微笑んでうなずいた愛の横に、柊一は寄り添って腰かけた。  明は、できるだけ毛並みのいい人間を選んで客引きを始めた。 「そこの綺麗なお姉さん、あなたにふさわしい美しい花はいかがです?」  清潔な身なりの女性が、鉢植えとそのそばに丸くうずくまっている愛に眼をやった。 「綺麗だなんて、お上手ね。あら、かわいい花屋さん」  愛は、女性を見上げた。  お客様。この方は、私のお客様。

ともだちにシェアしよう!