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第三章・7
明は滅茶苦茶に走り回った後、林奥の冷たい泉にばしゃばしゃと服のまま入った。
頭の先まで何度も体を水の中にくぐらせて、ようやくカンカンに熱くなっていた意識が冷えてきた。
「何があったか知らないんなら、口出しするなっての!」
もう一度、ざばりと頭を水につける。
「喧嘩両成敗? オレ、あいつのああいうところ大ッ嫌ぇ!」
ぶくぶくぶく、と水の中で息を全部吐き終わってから、明は勢いよく顔を上げた。
はあはあと荒い息がおさまりかけた時、水面に人影が映った。
水面に映った影の主は、顔を上げなくても解かる。ふんわりと漂うバラの香り。
「どうしたの?」
不安げな声で、愛がこちらを見つめている。
何と答えよう。
なにせ服のまま泉に入って、一人で暴れていたのだ。怪しすぎるにも程がある。
考えるのはほんの2,3秒だったにもかかわらず、愛は鋭く言葉を継いできた。
「ケンカでもしたの?」
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