136 / 259
第三章・9
恥ずかしそうに小さく笑った愛に、明は憮然とした表情を向けた。
「お前はバラより重いものなんか持ち上げる必要ないだろ」
「でも、魔闘士たるもの基礎的な身体能力は身につけなさい、って東郷様が」
またあいつか、と明は顔をしかめた。
いかにも東郷が言いそうなことだ。
効率の良い成功よりも、愚直な努力の方が好きなのだ。あの脳筋は。
「第三修練場の大岩。あれが持ち上げられれば一人前だって」
第三修練場の大岩と言えば、先だって柊一が真二つにしたやつだ。
「でもね。いきなりそれは無茶だろう、って柊一が小さくしてくれる事になってるんだ」
「柊一が?」
「うん。小さいものから順に大きいものにしていけばいい、って東郷様に言ってくれてね、次までに用意しといてあげる、って」
明は、ぱちんと額に手を当てた。
何て事だ。
柊一には、そういうわけがあったのだ。
理由もきかずに突然殴りに行ったことを、明は悔いた。
なんて子どもじみた真似をしてしまったのか。
ともだちにシェアしよう!