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第三章・9

 恥ずかしそうに小さく笑った愛に、明は憮然とした表情を向けた。 「お前はバラより重いものなんか持ち上げる必要ないだろ」 「でも、魔闘士たるもの基礎的な身体能力は身につけなさい、って東郷様が」  またあいつか、と明は顔をしかめた。  いかにも東郷が言いそうなことだ。  効率の良い成功よりも、愚直な努力の方が好きなのだ。あの脳筋は。 「第三修練場の大岩。あれが持ち上げられれば一人前だって」  第三修練場の大岩と言えば、先だって柊一が真二つにしたやつだ。 「でもね。いきなりそれは無茶だろう、って柊一が小さくしてくれる事になってるんだ」 「柊一が?」 「うん。小さいものから順に大きいものにしていけばいい、って東郷様に言ってくれてね、次までに用意しといてあげる、って」  明は、ぱちんと額に手を当てた。  何て事だ。  柊一には、そういうわけがあったのだ。  理由もきかずに突然殴りに行ったことを、明は悔いた。  なんて子どもじみた真似をしてしまったのか。

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