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第三章・10

 ふと愛が目を丸く開いた。すぐに笑顔がこぼれる。 「柊一!」 「何ィ!?」  振り向いた明は、林を抜けて泉の方へ向かってくる柊一と目が合ってしまった。  顔の部分部分が赤かったり青かったりと、実に気の毒な有様だ。  何も言わずに近づいてきた柊一に、明はもごもごと口を開いた。 「その、さっきは悪かったな。謝る。ごめん」  柊一は、素直に謝ってきた明に驚いた。  腹の中にはまだ熱い塊がくすぶっていたが、こうまで素直に謝られると拍子抜けだ。  ふぅ、とため息をひとつついて、尋ねてみた。 「なぜ突然殴りかかってきたんだ。痛かったぞ」  それは、と明はさらにもごもごと口ごもった。 「悪い。訊かねえでくれ」  ノイバラを台無しにされたから、だなんて、センチメンタルな事は口が裂けても言えない。  しかも愛が隣にいるのだ。  彼に見せて喜ばせようとしていたなんて、本人の前ではますます言えない。

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