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第三章・11

「まあいい。お前の方から謝ってくれただけで充分だ」  柊一はそう言うと、しゃがみこんで泉の水をすくうと顔を洗った。  切れた口の中が痛んだが、満足だった。  明とはケンカなど幾度もしたことがある。  ただ、いつも彼の悪ふざけが過ぎてのもめごとだっただけに、今回のマジ切れには仰天した。  それなりに、自分にも落ち度があったに違いない。  それに、明の方から謝って来たではないか。  これまでにはなかった展開が、柊一には愉快だった。  愛が現れてからこっち、明はどんどん変わってきている。  本人は気づいていないのかもしれないが。  明と柊一の間には安息が訪れたが、愛はひとりでざわざわしていた。  先ほどの明の怒りに任せた様子は、柊一に向けたものではなかったのか?  あんな怒りが、瞬く間に収束するものだろうか。

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