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第三章・22
午後の修練の前に水浴びがしたい、という愛と一緒に、柊一は泉に来ていた。
どうせまた、汗と埃にまみれるのに、と思いながら水と遊ぶ愛を眺めていると、明がひょっこり現れた。
「おう、やっぱりここだったか」
にやにやと笑う明を見て、柊一は午前の東郷の様子を思い出した。
川嶋の指導を受けながら、東郷の脇腹に一発蹴りを入れることができたのは嬉しかった。
しかし、いつもと違って精彩を欠いていた彼をやっつけても、喜びは半減だ。
川嶋に対しても、どことなくぎくしゃくした東郷の様子は、明らかにおかしかった。
「明。お前、東郷さんに何かしたか」
柊一は、もしかしてその原因は、明が東郷に対して何か行動を起こしたからかもしれない、と感じていた。
よからぬ企みは、すでに始まっているのだろうか。
「細工物を作る、とか昨日は言っていたが」
うん、と明はうなずくと、水の中の愛を呼んだ。
「愛、あがってこい。髪留めできたぞ」
嬉しそうに水から上がってくる愛に、柊一はタオルを投げてよこした。
ありがとう、と急いで体をくるんだ愛は、待てないというように両手をそろえて差し出した。
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