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第三章・23
「ほい」
バラの花の細工が施してある美しいシルバーの髪留めが、愛の手の上に乗せられた。
喜ぶ愛は見ていて微笑ましかったが、柊一は先ほどの問いかけを忘れたわけではなかった。
「お前が作った、もうひとつの細工物というのは」
その言葉を最後まで待たずに、明はポケットから何やら取り出した。
裏返してみると、文字と文様が掘り込んである。
「こっ、これは!」
柊一が驚いたのも無理はない。
それはどこから見ても校長印だったのだ。
「お前、こんなもの持ち出し……いや、まさかこれは」
「持ち出せるわけねえだろ、そんなもん。作ったんだよ。東郷への偽の命令書のためにな」
柊一は青くなった。
こんなもので命令書を偽造したことが明るみになったら、大騒ぎだ。
そんな柊一を見て、明はからからと笑うと、手の中の偽校長印を思い切り泉に向かって放り投げた。
どぼん、と重い音をたて、印鑑は水の底へと消えていった。
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