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第三章・26

(ああ、やっぱり川嶋様は、東郷様の事を)  明に、東郷に親切にするようにと言われている。  だが、これではやりにくいな、と愛は手にしたタオルをもじもじといじった。  お似合いの二人だ。  できれば応援してやりたい。  そう考えながら、愛はタオルを東郷に渡そうと前に出た。 「あ! 東郷、これ、あたしのタオルだけど使ったら?」  愛が東郷の視界に入る間もなく、川嶋が急いで自分のタオルを差し出した。  眼をぱちくりとさせ、東郷は言われるままに川嶋のタオルで汗を拭いている。  愛は思わぬ展開に驚いた。 「えーと。じゃあ、柊一。はい」  行き場を失った愛のタオルは、柊一の手に渡った。 (東郷さんの代わりか。俺は)  複雑な思いで汗を拭く柊一の目の前から愛はあっという間に消え、今度は水筒を持って駆け寄ってきた。  だが、それは今度も東郷の手には渡らなかった。

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