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第三章・36

「くッ!」    東郷は、シャツに両手をかけた。  勢いよく腹までまくりあげる。  女子の歓声がさらに高まった。 「まッ、待ちな!? 東郷、まさかあんた本気で!?」    川嶋は、そこで初めて自分のはしたない格好を自覚した。  全身真っ赤になってその場に小さくしゃがみこんでしまったその時、派手な音を立てて東郷の頭から防火用水のバケツの水がかけられた。 「もう、何バカな事やってるんですか! はい、終わり!」  愛が空になったバケツを手に、仁王立ちしている。  東郷は二、三度目を瞬かせた。  のぼせ上がった頭が急速に冷えていく。 「明、外に出て! 東郷様も、早く!」  愛に背中を押され、部屋の外に出ながら東郷は弱々しいながらも精一杯の声を振り絞った。 「すまん、川嶋」  その言葉は、川嶋の耳だけでなく心にまで届いただろうか。  東郷が最後に見たのは、うつむいて黙ったままの川嶋の姿だった。

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