181 / 259

第三章・54

「……悦かったか?」 「うん……」  はぁはぁと口で呼吸している愛は、話す余裕がない。  ただ黙って、明の体にすがりついた。  愛の体に走る細かな痙攣を、明は感じていた。 (少しは、役に立てたのかな)  そんな謙虚なことを明は考えていたが、愛は至上の歓びを味わっていた。 (これが、好きな人とのセックス……)  心の奥底に溜まった澱が、昇華された気がした。  悲しい過去も、明がいれば背負っていける気がしていた。

ともだちにシェアしよう!