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第四章・3

「ま、兄さん。こいつぁ、お詫びのしるし。コレで何か美味いモンでも、ね?」  そう言って、明は財布から適当に札をざっくり抜くと、男に握らせた。  いい心がけだ、とチンピラはすぐにご機嫌になっている。 「今後、気をつけろよ!」 「はい、ど~も」  肩で風を切って歩いて行く男を最後まで下手に見送る明の行動は、これまで見た事のないものだった。  そんな言動の一部始終を目撃し、ぽかぁん、と動けなくなってしまった愛に、蟹座の大魔闘士は何事も無かったかのような笑顔を寄越し、彼の腕を掴んだ。 「いつまでボケっとしてンだよ。ランチ食いにいくぞ?」 「え? あ、うん」  再び歩き始めたが、愛の頭の中は先ほどの明の姿でいっぱいだった。 (昔は、ああじゃなかったのに)  魔導学校だろうが外の町村だろうが、因縁をつけられると完膚無きまで叩きのめしていた明だ。  それがどうして、手のひらを返したように下手に出るようになったんだろう。  180°変わってしまったんだろう。

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