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第四章・6
語尾は、勢いよく講義室へ飛び込んできた蠍座の大魔闘士・本城(ほんじょう)の大声にかき消されてしまった。
「あ、ここにいた! 東郷さん、入江さん、大変なんだ! すぐ来て!」
ただ事ではない様子だが、本城はコップの水がこぼれても、こういうリアクションをする少年だ。
二人の年長者は、のんびりとした態度を変えなかった。
「どうした、本城。イヌがネコでも生んだか?」
「落ち着いて、何があったか話してごらん」
呑気な二人に地団駄を踏みながら、本城は訴えた。
「三丁目で左近允が! 普通の人を相手にケンカ……」
今度は入江が、本城の語尾をかき消すほどの音を立てて椅子を蹴り、ダッシュで講義室を出て行った。
「……手を離して見守るんじゃなかったのか?」
入江は、左近充の事となると途端に心配性になるからな、と東郷は苦笑いした。
確かにあの蟹座は人一倍、いや十倍も百倍も手のかかる問題児だから、仕方のないことではあるが。
そして東郷は本城と連れ立って、入江の後を追うように三丁目へ向かった。
途中で何があったかを、尋ねながら。
本城に、左近充がなぜ一般人相手にケンカなんか始めたのかを聞きながら。
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