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第四章・18
「愛!」
明は、初めて面会人に嬉しそうな声をかけた。
「明、大丈夫?」
ああ、そして初めてこんな優しい言葉をかけてもらった。
やっぱり愛は、最高だ!
大したことねぇさ、なんて強がりを言い、精一杯カッコつけて見せる明だ。
だが、一つだけ不満を漏らした。
「メシが物足りなくってよぉ。不味くはねえんだけど、もう一品、ってところが、な」
「何か食べたい物、ある? 差し入れに持ってくるから」
「じゃあ、アンチョビのオリーブオイル漬け!」
「うん、解かった! あ、町に、売ってある?」
そうだなぁ、と明は考えた。
「あるだろうけど、美味いかどうかだなぁ。パオロ・カヴァタイオ製のやつが、最ッ高なんだけど」
じゃあ、と愛は眼を輝かせた。
「街まで行って、一番大きなマーケットを探してみる!」
「マジかよ。無理しなくてもいいぞ?」
任せといて、と愛は胸を張り、慌しく去っていった。
明はもう少し彼と話していたかったが、せっかく頑張ってくれるのだ。
アンチョビのオリーブオイル付けという楽しみができて、この全くもって忌々しい牢獄にわずかながら差した色を喜んだ。
蒼次郎が話し途中で止めた『仕返し』のことなど、すっかり忘れていた。
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