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第四章・21

 うん、と何も言わずに5人の若者たちは頷き合い、その場で親しいマフィアの下っ端に連絡した。 「ちょっと、ヘロイン欲しいんだけど。うん。静脈注射できるように、アンプルで持ってきて。あ、それと。2~3人集められる? いや、オンナじゃなくって、男。……違うよ」  ちょっと、イタズラしたい子がいてさぁ。  電話を終え、そこそこ整った顔立ちであるはずの5人は、醜悪な笑みを交わした。  そして、マーケットへ消えた愛の跡をつける者と、ここへ間もなく到着するであろうマフィアを待つ者とに分かれて行動を開始した。  大きな街の大きなマーケットに来た愛だったが、残念ながら明の言う『パオロ・カヴァタイオ製』アンチョビ・オリーブオイル漬けは、無かった。  スタッフに尋ねてみたが、それはイタリアのシチリア産なのでこの店には置いていない、とのことだった。 「イタリアのシチリア産、かぁ。ちょっと遠すぎるよね」  明は、がっかりするかもしれない、と愛は胸を痛めた。  そして、僕からも、明を牢から出してくださいと、校長先生にお願いしよう、と考えながら、スタッフお勧めのギリシャ産・アンチョビを買った。

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