209 / 259

第四章・23

 せっかく大きな街へ出てきたのだ。  いつもだったら、ちょっとだけお菓子の店を覗いてみたり、きれいなお花屋さんを見てみたり。 「そして噴水のある公園で、アイスクリームを食べるんだけどな。明と一緒に」  だが、その明は今ここに居ない。  暗い地下牢に閉じ込められ、辛い思いをしているのだ。  そう考えると、もうお菓子屋さんもお花屋さんも、どうでもいいことのようで。  愛は速足で魔導学校へ戻るべく、バス・ストップを目指した。  するとそこへ、誰かの呻き声が聞こえる。 「う……、うぅぐぅ。痛ッ、痛……ッ! うぐぐぅ」  声のする方を探してみると、レンガ造りの大きな時計屋と雑居ビルとの間に通る薄暗い路地奥に、男がうずくまっている。  壁にもたれかかって腹を押さえ、苦しそうに唸っているのだ。 「どうしたんですか!」  困っている人間を見ると、放っておけない愛だ。  お腹が痛くて困っているなら、僕が治癒のオーラで……。  そう考えて、路地へ何のためらいもなく入り込んで行った。  行く先には、おぞましい罠が大きく口を開けている事も知らずに。

ともだちにシェアしよう!