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第四章・24 ~嗜虐~

「おい。あんた、まだその辺に居ンだろ?」  愛が行ってしまってしばらく経った後、明は独り言めいた口調でそう言った。  一応置かれた見張りは不思議そうに牢の中の明を覗いたが、簡易寝台に仰向けになって足を組んでいる彼に何ら不審な点は見られなかったので、再び外からやってくる何者かがいないかに気を配りなおした。  蟹座の大魔闘士・左近充明。  彼の卓越したサイキック能力は、魔闘士の間でも有名だ。  それでも彼がこの時代錯誤の地下牢でおとなしくしているのは、校長の作った強力な封印護符のおかげに他ならない。  でなければ、こんな半ば錆びた鉄格子などあっという間に通り抜けるか、または捩じ切るかして脱獄しているところだ。    それでも、万が一の事を考えてしまう。 (そうなると俺も、ただじゃ済まないかも)  気の小さい牢番は、なぜ自分にこんな仕事が回ってきたのかを嘆いていた。  行きがけの駄賃とばかりに、叩きのめされるかもしれない。  明が脱獄した事を想像しては、嫌な汗をかいていた。  せめて、2人1組にしてもらえないかと、今度の交代の時に上へ話してみよう、などと思いながら仲間が来るのを今か今かと待っていた。

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