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第四章・42
胸の悪くなる心地で見渡していた蒼次郎の耳に、ばきりと固いものを壊す音が聞こえた。
ふと見ると、魔導衣を纏ったままの凜太朗が、床に放置してあったスマホを踏みにじって粉々にしたところだった。
「おいおい、ずいぶんご機嫌斜めだな」
「動画まで撮るとは……、許せん」
低く抑えてはいるが、十二分に怒気を孕んだ声だ。
剣呑剣呑と唱えながら、蒼次郎は愛に群がる男たちをつまんでは壁に叩きつけた。
しかし、完全にドラッグで飛んでいる馬鹿どもには痛みも感じないようだ。
床に転がっても、焦点の定まらない目をしてニヤニヤしている。
「岬、解かるか?」
「入江様……、蒼次郎様……」
さすがに毒を司る魔闘士だけあって、この中では一番まともだ。
だがその姿は、見るも無残に汚されている。
そんな二人の気持ちをまるで読んだかのように、悲しい声で囁くのだ。
「見ないで……。明、見ないで……」
「左近充も来てると思ってるんだろう」
「可哀想に。どうにかして、心を救ってやらないと」
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