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第四章・43

 さて、お手並み拝見、と一歩下がった蒼次郎だ。 「俺はお前に、左近充の代わりとして同行させられたんだ。指示を頼むぞ」 「思ってもいない事を言う癖は、まだ治らんな」  凜太朗は知っている。  単なる代替として連れて来られた、などと蒼次郎はこれっぽっちも思ってやしないという事を。  この不肖の兄のサポート役を、しっかり務めてくれるつもりで、共に来てくれた事を。  まずは、この悲惨な記憶を消してやることだ、と凜太朗ははっきりと言った。 「おいおい、それは東郷の『自分の不注意が招いた失敗は決して忘れずに、後の判断に活かせ』という教えに反するが?」 「忘れた方がいい事もあるんだ。少なくとも、私はそう思う」  ハッキリとそう断言した凜太朗は、自分の額を愛の額に当てた。  ほんのりと温かな金色のオーラが二人を包んで、柔らかく輝いた。

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