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第四章・44

 人がこの兄をして『天使』と敬う気持ちが、ようやく解かった。  愛の心を、体を傷つけた苦しみや悲しみ、痛み。  それらを浄化させてゆく、まさに天使のごとき凜太朗の姿。  思わずその光景に目を奪われていた蒼次郎だったが、そっと額を離して次のアクションを起こした凜太朗から、現実に引き戻された。  がきん、と金属質の音をたてて、愛を戒めていた手錠を力任せにブチ切ってみせたのだ。 「おいおい。天使かゴリラか、どっちかにしろよ」  しかし、ようやく全てから解放され、穏やかにすうすうと眠っている少年を見ていると、揶揄の笑いも穏やかな微笑みに変わる。  蒼次郎と凜太朗は二人顔を見合わせ、にっこりと頷いた。  凜太朗がマントを脱ぎ、蒼次郎はそれで愛を包んで横抱きした。  さて、お次は何が始まるやら。  正直、こんなに感情を露わにし、態度で示す兄には滅多にお目にかかれない。  スマホを踏み潰してみたり、手錠を力尽くで壊したり。  その凜太朗は、お次はこんな事を言ってきた。 「岬の体は、後で清めてやろう。さて、蒼次郎。今度はお前の出番だ」 「俺か!?」

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