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第四章・45
凜太朗は両腕を伸ばし、蒼次郎から愛を受け取った。
やはり魔導衣を身に付けた者が力尽きた人間を抱く、という姿は画になるものだ。
そんな奇妙な感心も手伝って、蒼次郎は肩をすくめた。
俺はこの通り、平服だ。
大魔闘士でもない俺に、何かできる事が?
「何を仰せ付かるのやら」
「茶化すな。頼んだぞ、お前にしかできない事だ」
先程見せた天使の慈愛が、すっかり鳴りを潜めている。
代わりにあるのは、悪魔の憤怒だ。
(凜太朗を怒らせるとは。こいつら、人生終わったな)
しかし、気の毒に、とは思わない蒼次郎だった。
凜太朗は憎々しげに歪めた顔つきで、ぐるり部屋を見渡した。
ドラッグをキメて、正体を無くしてしまっている愚か者たち。
一見して、やくざ者と解かる柄の悪さだが、その中には蒼次郎が話していたセレブのどら息子たちも5人混じっている。
社会的地位も、財力も、有り余るほどの家に生まれて育ったのだろうが、心があまりにも貧しい若者たちだった。
凜太朗の『嫌そうな顔』を見るのは珍しいし、次の言葉は初めて聞くしで、蒼次郎は驚いた。
驚いたが、悪い気はしなかった。
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