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第四章・53

 無駄なケンカは、避けた方が利口なんだよ、と明は、やはり月を見たままだ。  しかし、淡々と語られる彼なりの流儀に、愛は素直に感動していた。 「大人になったね、明」  明は、自分を愛してくれる人のために、自分が愛する人のために、争いを避けるようになったのだ。  でも……。 「『俺がオトナになれたのは、お前のおかげなんだぜ』っていうのは? 私がきっかけで、小競り合いをしなくなった、っていう事だよね。私、何かしたっけ?」  そりゃあ、と改まって明は愛の方を向いた。 「一番巻き込みたくないのが、お前だからさ。好きだぜ、愛……」 「え、あ、あの。もう、バカ……」  月明かりで出来る二人の影が、ひとつに重なった。

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