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第五章・5

 湯を肩にすくいかけ、流れとともに腕まで撫でさする。  唇は耳元で、愛の言葉を囁き始めた。 「綺麗だぜ、愛」 「くすぐったい」 「お前みたいな美人、俺にはもったいないな」 「そんなこと、ないよ」  熱い息を吐きかけ、時折耳を食みつつ、明は妙な違和感を感じていた。  いつもなら、こんな言葉の愛撫を愛は喜んでくれるんだが。  溜息をつき、眼を細めて、もっとと身をくねらせてくるんだが。 「暑いね。出ようか」 「え? ああ」  すい、と腕から逃げて行ってしまう。  バスルームで一戦交えてもいい、くらいの気持ちでいた明には肩すかしだ。 (機嫌……は、いいはずだよな。部屋、気にいってるんだから)  湯上りには、ワインではなくミネラルウォーターを選んだ愛も、いつもの彼ではない雰囲気だ。

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