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第五章・15
「愛」
「ぅん?」
「悦かった?」
「……うん」
「俺も」
「うん」
後は二人でもう一度、しっとりと湯を使った。
先程のようにはしゃぐことは無かったが、体も心もぐんと近づいていた。
互いにもたれて、ゆったりとした時間を過ごすことは、事後のもたらす楽しみの一つだ。
「綺麗だぜ、愛……」
「ぅん……」
ああ、そしてここでも明は、愛の欲しい言葉は選ばない。
綺麗、可愛い、美しい、そんな言葉はいらないのに。
「どうした?」
「何でもない」
そして、笑顔を見せてしまう。
ふくれっ面で、ぷいと横を向いてしまえれば、要らない感情に責めさいなまれることもないというのに。
ぱしゃん、と湯をかいた。
「出ようか」
先にそう言ったのは、やはり愛の方だった。
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