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第五章・17
うんうんと相槌を打ちながらも、愛はどこか心ここにあらず、といった風だった。
ホテルの時もそうだったが、何だか今日の愛はいつもとちがう。
セックスすれば元に戻るかと思っていたが。
(相変わらず俺との間に、薄い膜でも張ってるみたいだ)
だから、喋った。
とにかくこいつの心からの笑顔が見たかったから、いつもより気を遣って面白い話を途切れることなく喋りつづけた。
喋って喋って、喋り続けて。
疲れた。
疲れた頭と口とで、思いついた事はシンプルな言葉だった。
今まで愉快に話していた明がいきなり黙り込んだので、愛はわずかに驚いた。
どうしたんだろう。
具合でも悪くなったのかな。
今まで、彼が一方的に話題を提供し続けてくれたのだ。今度は僕が先に喋る番だろう。
そんな風に考えたりもした。
愛が声を掛けようとした時、明の手が彼の肩にそっと乗せられた。
「愛」
そして、ゆっくりとキスされた。
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