256 / 259

第五章・17

 うんうんと相槌を打ちながらも、愛はどこか心ここにあらず、といった風だった。  ホテルの時もそうだったが、何だか今日の愛はいつもとちがう。  セックスすれば元に戻るかと思っていたが。 (相変わらず俺との間に、薄い膜でも張ってるみたいだ)  だから、喋った。  とにかくこいつの心からの笑顔が見たかったから、いつもより気を遣って面白い話を途切れることなく喋りつづけた。  喋って喋って、喋り続けて。  疲れた。  疲れた頭と口とで、思いついた事はシンプルな言葉だった。  今まで愉快に話していた明がいきなり黙り込んだので、愛はわずかに驚いた。  どうしたんだろう。  具合でも悪くなったのかな。  今まで、彼が一方的に話題を提供し続けてくれたのだ。今度は僕が先に喋る番だろう。  そんな風に考えたりもした。  愛が声を掛けようとした時、明の手が彼の肩にそっと乗せられた。 「愛」  そして、ゆっくりとキスされた。

ともだちにシェアしよう!