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第五章・19
やけに真面目な眼で、やけに真面目にハッキリと。
「愛してる」
愛の頭の中は、真っ白になっていた。
何、突然。
心の準備が、全然。
「え、あ、その。私も、好きだよ。もちろん」
平静を装うつもりが、かくん、と石段を踏み外した愛がそこにいる。
「な、何かな。急に」
そんなぎこちない愛のリアクションが、可愛くて。
「愛してる、愛」
もう一度、優しいキス。
愛の頬は、バラ色に染まった。
(あぁ、嬉しい!)
一番欲しかった言葉を、明の口から聞けるなんて!
しかも、全くの不意打ちだ。
一体どうして!? 心を読まれたのかな!?
『たまには、こういうシチュもいいかと思って』
明がホテルで言った言葉が、甦って来た。
うん。たまにはいいよね。
愛してる、なんてありふれた、でも大切な言葉を、たまには言ってもらえるなんて。
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