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16吸血鬼の目
ここ3日ほど大雨が北の大陸に降り注いでいた。魔王といえど魔法で晴れにするなどの、天変地異には介入するほどの魔力はないようだ。
セナは外で訓練も出来ずに魔王の寝室で暇を持て余していた。
「暇だぁ〜」
「ピッピヨ〜」
「ではセナ、俺と今から遊ぶか」
魔王アディはベッドに寝転がるセナにのしかかると、首筋に顔を埋める。
「あっ、アディ、・・・しないからな」
「何を想像している?俺はセナに抱きついているだけだが?」
「え、エッチな事はしない」
「例えば?」
「うーん・・・ひゃっ!」
首筋を突然アディの舌で舐められ、セナは身体を跳ねさせる。アディを押し退けようとしたが、ビクともしない。
「あ、アディ!エッチな事しないって」
「俺は愛情表現としてセナの毛繕いをしているだけだが?淫らな行為を想像しているのは、セナだけだな」
「・・・ぐぬぬ」
以前リドレイに突っ込まれ、その後風呂でアディにされてから全然していない。とはいえどうぞ、と身体を差し出す気にもなれないセナだった。反論できないセナの鎖骨を舐めて満足したのか、アディは身を起こした。
「何用だ」
「・・・え?」
アディは寝室のドアの前から気配を感じ取り声を発する。
「恐れながら魔王陛下、セナの勉強のお時間です。お迎えに参りました」
声の主は、魔王補佐のジゼのようだった。ジゼは吸血鬼で、勉強中にセナの性器を好き勝手された前科がある。その後は何事も起きてはいないが。
「うむ、後ほど行かせる。下がれ」
「かしこまりました」
ジゼの気配が消えると、アディはセナの身を起こす。
「さて、お勉強の時間のようだな」
「俺、ちょっとジゼは苦手かな」
「ジゼは厳しいか?」
「教え方は問題ないけど、吸血鬼だし」
「ジゼはいきなりがっつくタイプではないとは思うが、セナがきちんと態度に出さねばあの男はわからないぞ」
「アディは俺の身を案じてるのか、突き放してるのかわからないんだけど」
「セナはまだ俺のものではないからな。皆に等しく好機を与えねばならない」
「・・・俺はゲームの景品じゃないんだけど」
「わかっている」
アディに腕を握られ見つめられた。セナは乙女ではないが、美形に見つめられるとさすがに恥ずかしいので腕を振りほどいて歩き出した。
「べ、勉強行ってくる!」
「しっかり励めよ」
ぴよ太が頭に飛び乗りセナは寝室を出ると、その場にへたり込んだ。耳が心なしか赤い。
「俺って男でもイケる面食いだったのか?相手は街を吹き飛ばす魔王だぞ・・・」
「ピヨ?」
「俺は今、ぴよ太になりたいよ・・・」
「ピヨ?」
ぴよ太はセナの頭の上で可愛いく首をかしげた。セナは立ち上がると、ジゼの執務室まで走って行くのだった。
執務室まで全力疾走してしまったセナは、到着する頃には息切れしていた。ジゼはちょっと呆れたように冷ややかに見ている。
「セナ、なぜすでに体力を消耗しているのですか」
「はぁはぁ・・・ランニングをちょっと頑張りすぎて・・・ゴホ」
「馬鹿ですか?どうせなら、勉強を頑張って欲しいですね」
「・・ぅ、ごもっとも」
セナは恥ずかしいのを吹き飛ばすために魔王の寝室から、ここまで全力疾走した自分に頭を抱える。気を取り直して、今日のジゼの授業を受ける事にした。
今日はたくさん本のような物が積み上げられており、テストでもするのかと身構える。セナは正直、頭はそんなによくない自覚はあった。
「今日は我が国の歴史をお教えします」
「歴史かぁ」
「まずは、本の1ページ目を開いてください」
「うん。1ページ目、1ページ・・・ぁッ!いってぇ、指切れた」
セナは手元を見ずに本を開こうとして、紙の端で人差し指を切ってしまい血が滲んできた。無意識に舐めようとしたが、その手をジゼに掴まれる。
ジゼの目は、人差し指の血が滲む部分に目が釘付けだ。
「あの・・・ジゼ?」
そのまま人差し指の血を舐められ、また噛まれると目を瞑るが唇に柔らかい感触が触れて目を開ける。
「・・・・・」
ジゼがセナの口にキスをしていた。3回目のキスは、まさかの吸血鬼とだった。思わず顔を引いて拒否しようとすると、ジゼがまた口を塞いだ。
「ンッ!ん、ふ、・・んんッ、ぁ」
今度は歯列を割って無理矢理舌が入り込んできて、舌を舐め回される。いつの間にか上着ははだけされていて、ジゼの指先がセナの胸をまさぐっていた。
「んっ、ん、・・・はぁ、ぁ、んんッ」
「は・・セナ、私の目を見て」
「ん・・・ぅ」
セナは息を切らしながら言われるままにジゼの目を見る。するとだんだん意識が薄れていく気がした。最後に覚えていたのは、ジゼの赤い目が発光する瞬間。
そしてジゼが首筋に顔を埋める感触だった。
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