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18罪の天秤

 セナの目が覚めると魔王の寝室だった。先程までジゼと勉強していたはずなのに。 「おかしいな・・・ジゼと勉強してたはず。夢の中で勉強してたのか?」 「そんなわけないだろう」  キシリとベッドに身を乗り出して来たのは、魔王アディだった。セナの顎を掴むと、横に向けさせて目を細めた。  首筋に2つの穴が空いている。 「ジゼめ、傷は付けるなと言っておいてこれだ。吸血量を間違えれば死んでいたぞ」 「あの・・・俺の首どうなってる?」 「吸血鬼の牙で噛まれている。残念だが傷は残る」 「ぉ、俺、吸血鬼になる?」  セナの世界でファンタジーの話しでは吸血鬼に噛まれると吸血鬼になるというのを思い出し、不安な目でアディを見た。  そんな怯えるセナを、アディは柔らかな表情で頭を撫でた。 「いや。ただ吸血のために噛まれただけでは、吸血鬼にはならない。安心しろ」 「そうなんだ、よかった」 「だが、ジゼは掟を破った」 「あ、・・・魔王の鉄拳制裁」 「さて、困ったものだ」  アディはベッドから降りると、ロビを呼び魔族の招集をかけるのだった。  魔王の玉座の間に招集した魔族達は、玉座に座る魔王とまた膝の上に座らされたセナにひれ伏せた。  その中心にはジゼが、リドレイに拘束され膝を付いて座らされている。 「また、膝の上・・・」 「嬉しいか?」 「複雑な心境だよ、俺は・・・」  アディは少し笑うと、いつもの魔王としての顔になりジゼを見据える。 「まさかお前が掟を破る1番手とは思わなかったぞ。さて、お前の処遇についてだが」 「・・・掟を破りセナに一生の傷を付けた事、弁解する余地もありません。いかなる処罰もお受け致します」 「吸血鬼は陽の光に弱い、わかるな?」 「はい」  魔王は吸血鬼としての臣下に、冷酷な処罰を下そうとしていた。  だがそれを膝の上のセナが止めたし 「ま、待てよ!俺と恋仲とかっていうのは、ただの気まぐれな遊びだよな?じゃあ、別に罰とかいらないんじゃ・・・」 「では、セナはどのような処罰がいいと思うのか?」 「えっ、俺は・・・別にみんながいつもみたいに普通に生活できればいいかな」 「普通にか・・・人であるセナがどうやって魔族の中で普通に生きる?」 「え・・・ロビと菜園に行ってジゼに勉強を教えてもらって、リドレイに剣を教えてもらって・・・アディを・・」 「俺を?」  セナはこの城に居る理由を改めて思い出した。 レベルを上げて魔王を倒すと。  伸ばした指先をアディが掴むと、セナは我にかえる。 「俺を、なんだ?」 「アディを・・・魔王を倒すんだった」 「ふむ」 「おーい、2人きりの世界作るのやめろ」  見つめ合っていると、リドレイが横槍を入れて来た。セナは掴まれた手を即座に引っ込めて、アディから目を逸らす。 「それで魔王はジゼの処罰をどうするんだ?」 「やはり陽光による処罰がよいか」 「だから、待てってば!じゃあ、代わりに俺が罰を受ける!」 「いけません、セナ!」 「セナよ、どのような罰を所望だ」 「えっ・・・うーん、痛いのはちょっと嫌かな」 「わかった、では痛くない方で受けてもらおう」 「わっ、えっ!?」  アディはひょいとセナを抱き抱えて立ち上がる。 「1週間ほど俺の寝室には入るな」  誰も異議を唱える者は居なかった。セナは1週間何をされるのか不安になったが、身代わりになるという発言に撤回はしない。 「ロビ、ぴよ太あずかっておいてくれ」 「セナさまぁ・・・」 「ピヨ・・・」 「大丈夫、また菜園に行こうな」  セナはロビにぴよ太を預けると、そのまま肩に担がれて寝室へと向かう。  魔王の寝室に着くと、セナはゆっくりベッドに降ろされた。髪を耳にかけられて、身体が一瞬ピクリと跳ねる。 「セナ、なぜお前は俺のものにならないのか」 「俺が男だとかアディが人間じゃないとかは置いといて、アディのどこが好きかがまだわからないからかな・・」 「俺はお前の容姿も、無鉄砲さも可愛いさも全て愛しい。初めは気紛れであったが、今は共に歩みたいと思っている」 「俺、他の奴と・・・その・・した身体だけど」 「俺は心の狭い奴ではない。セナがわかるまで、ゆっくり懐柔するとしよう」  アディはそっとセナに口付けると、ベッドに押し倒すのだった。

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