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番外編 勇者と吸血鬼
ゴホン・・・私は、気高き崇高なる魔王陛下の重臣であり麗しき吸血鬼種の魔族である、ジゼと申します。
そして無謀にも魔王陛下に挑みに来た勇者セナの教師役を努めています。後々魔王陛下のお戯れで城に呼び寄せたと聞いた時は、千年の眠りも覚める衝撃の事実でしたが・・・。
セナは頭は悪いですが、なかなか素直で美味しそうな血の持ちぬ・・・・・ゴホン・・・なかなか素直で健康優良児です。あぁしかし、私の吸血鬼の魔眼を見て扇情的な姿を曝け出したセナは、月よりも美しく闇よりも妖艶で私の冷たい心臓さえも熱くさせるのです。思わず噛んで吸血してしまったあの日の事を思い出すと牙が疼きます。腰に足を絡め、動いて・・と涙目で懇願するセナをさらに私に縋らせたい・・・
「何してるんだ?ジゼ、こんな廊下のど真ん中でしゃがみ込んで」
「・・・セナ」
どうやら悶々としていたのか座り込んで居たようです、失態です。牙が疼くのを悟られぬように平然とせねば。
「なんでもありません。それより宿題はきちんと仕上げてきたのでしょうね?」
「うっ・・・・」
「はぁ・・・・まったく、貴方は昨日1日何をしていたのですか。まさか遊んでいたのではないでしょうね?」
「ぇっと・・・・あの・・アディが・・・」
「魔王陛下がなんですか?」
セナは珍しく頬を赤らめて、私から視線を逸らす。漆黒の宝石のような瞳を見ていたいのに、こちらを向きなさいセナ。
「アディが・・・俺のこと一日中、狼の姿であんなことするから・・・宿題できなかっ・・!?」
私はセナの言葉の断片から魔王陛下に何をされたのか汲み取り、廊下の壁にセナの両手首をひとまとめにして張り付けていた。
人間より早い動きをする吸血鬼の私の行動に、セナは何が自分に起きたのか理解するのに遅れているようだ。瞬きしながらその美しい黒い瞳で、私を見ている。このままセナの首筋に噛み付いて貪り、私と永遠の愛を・・・・
「・・・ジゼ、ちょっと痛いんだけど」
「も、申し訳ありません・・・・失態です」
我に帰った私は、セナに不埒な想いをぶつけようとしていた事を反省する。こんな公衆の面前で愛しい生徒に私は何をしようとしていたのか・・・ですが、こんな所でセナを追い詰めて私だけしか縋る者が居ない状況になったら私だけのものになってくれるのだろうか・・・・。
セナをゆっくり降ろしてやり、うっすら赤い跡が残るセナの手首をさすって労ってやる。
「痛みますか?」
「ん、大丈夫。ジゼって見た目弱そうなのに、意外と強いよな」
「なんですかその不敬な発言は。罰として今日は宿題を2倍に増やします」
「ええー!俺、ジゼに何もしてないだろ!」
「吸血鬼の私よりも誘惑は上手いですからね、セナは」
「なんのことだ???」
・・・・セナ、魔王陛下どころか他の男にも抱かれているのにその無自覚さ・・・私が今からその浅はかで可愛いところをどれだけ不覚なのか教えて差し上げますよ。
二人だけの教室でね
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