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「――あの人が、“龍臣”さん?」
ようやく自身から離れた莉宇を待って、瑠輝は上体を起こしながら声を潜めて訊ねた。
極力、男には聞こえないように。
瞬間、瑠輝が横たわっていたキングサイズのベッド左脇にちょこんと座っていた莉宇の目が僅かに見開く。
あ、やっぱり“龍臣”さん、なのか――。
莉宇の反応から、瑠輝はそう判断する。
「王子様みたいな人じゃん。確かに、あんなにイケメンだったら忘れられな⋯⋯」
何故か騒めき立つ自身の心には気が付かないふりをして、瑠輝はなるべく落ち着いた口調で努める。
だが、瑠輝の言葉を遮るようにして放たれた莉宇の言葉は予想と反するものだった。
「あの方は、龍臣じゃない」
「そ⋯⋯う、なんだ?」
瑠輝は驚きを隠しつつ答えるも、密かに心の中で安堵した。
そっか。
あの王子様、莉宇の初恋の人じゃなかったんだ。
あれ、僕⋯⋯今、何故か安堵している。
どうして、だ。
安堵した自身に戸惑う瑠輝。
「あれ、もしかして瑠輝⋯⋯あの人が気になっちゃった感じ?」
知らぬ間に表情にも出ていたのだろうか。
ニヤニヤと意地悪そうな顔で莉宇がそう訊ねる。
「んなワケ、ないじゃん。だって、あの人――もしかしなくてもアルファ、だろ?」
心の奥底を見抜かれたような気がして、慌てて瑠輝は全身で否定の言葉を述べる。そうすることで、突如自身の心に現れた小さな違和感を誤魔化そうとした。
「僕は、アルファとどうこうなるつもりなんてないって、いつもそう言ってるじゃん。だいたい、ここはどこなんだよ?」
興奮から声が大きく上擦ってしまう瑠輝の口を、莉宇は咄嗟に塞ぐ。
途端、会話中に聞こえていたはずの男の脚音が止んでいることに気が付き、瑠輝ははっと視線を莉宇から前へ向けた。
「不法侵入のクセに、だいぶ生意気な口の聞き方をするんだな」
瑠輝たちの居るベッドの脚元側に立つ男が、耳に心地好い低い声でそう言った。
顔は王子様然としているが、その口調は外見とは全く違い一切の甘さはなく、冷酷な口調であった。
途端、瑠輝は全身を警戒するように強ばらせ、息をすることさえも緊張してしまう。
瑠輝の脇に座っていた莉宇も、その言葉を受けて咄嗟にベッドから飛び降りる。
「ここは全寮制の、政府から選ばれた少数精鋭のアルファのみが暮らす極秘の育成機関だ。だいたい、ネックプロテクターがついているようなヤツが簡単に忍び込めるような場所では、ないはずだが?」
ぴしゃりと違法行為を咎める男の口調に、瑠輝はぐうの音も出ない。
同時に、自身の学ランの前が全開で隠していたはずのネックプロテクターが露わとなっていたことと、やはりここは莉宇の言う通り、世間で噂されている超エリートアルファを育成する機関だったことを知る。
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