11 / 139
1-6
どうしよう⋯⋯。
瑠輝は酷く困惑していた。
世間では、あくまで噂の域として留まっていた蔓薔薇の中の真実を知ってしまったこと。そして、ネックプロテクターが露わとなったことで自身がオメガであることを、しかも、そのオメガが超エリートアルファしかいない極秘の場所へ大胆にも乗り込んでしまったことを。
元来、シェルター暮らしの瑠輝たちは普通の家庭に生まれたオメガとは違い、世間ではその不明な出自のせいか、最下位のオメガの中でも、更に蔑まれる存在として位置付けられてきた。
もちろん、国の法律やシェルターや各教育機関でそのような差別や規制、教え等はされていない。むしろ、性差階級の撤廃を謳っている国のお偉いアルファたちも「性差別のない社会を」と、気持ち悪いくらいに常々賜っている。
だが、一度浸透した古くからのその風潮は中々消えることがなく、シェルターで暮らす者の中には、将来アルファとの玉の輿を夢見て、そういう 違反である店で春を売る者も後を絶たない。
ほとんどのオメガは正攻法で普通のアルファと出逢うどころか、言葉を交わすことさえままならないからだ。
世間では、そのようなオメガをはしたない淫乱なオメガと呼ぶ。
それでも、物理的幸せを求めるオメガは世間体等気にせず、アルファと出逢える方法を身体を張って探すのだ。
だからこそ、超エリートアルファなんて以ての外である。普通の家庭出身のオメガでさえも、出逢うことは奇跡に等しい。
そもそもアルファとは、この世の最上位に君臨する何一つ不自由のない上流階級の者たちのことだ。
生まれながらに優秀な頭脳と身体能力、それに引けを取らない美貌を持つアルファは、男女問わず大抵国家機関や有名大企業、医療、スポーツ界等あらゆる分野の最高峰で実権を握っている。超エリートアルファと呼ばれるアルファは、そのほとんどが最高裁判所長官や国の政を司るトップになる等、国家の主要ポストに治まる運命にあるのだ。
しかし、そんなアルファにも唯一弱点がある。ヒートと呼ばれる発情期が訪れたオメガのフェロモンに充てられ、ラットと呼ばれる発情期を起こしてしまう。
一度ラットを起こしたアルファは、強い性的衝動から理性を失い凶暴化し、意識がなくなるまでオメガを襲うという。
瑠輝には、まだ発情期が訪れていなかったが超エリートアルファを前にして、無意識に学ランの前を閉じ警戒してしまう。
男はそんな瑠輝の様子を冷ややかで軽蔑した眼差しでこちらを一瞥すると、フンと鼻で笑った。
ともだちにシェアしよう!