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途端、瑠輝はその横柄な態度に馬鹿にされたと思い、大きな苛立ちを感じた。
それだけでなく何もかもを忘れ、つい感情に任せ口を滑らせてしまう。
「あのさ、勘違いないように言っておくけど僕は自惚れてなんかない。学ランの前を閉じたのは、アンタのためだからな」
心配そうに傍へ駆け寄る莉宇を振り切って、瑠輝は男の前へ出て啖呵を切る。
残念ながら二人には二十センチ以上の身長の差があった。本来であれば瑠輝は顔と顔を近付けながら文句を言いたいところだったが、その身長差からどう見ても、子どもが大人にギャンギャンと噛みついているようにしか見えない。
瑠輝本人は、自分より大きい莉宇のことをゴールデンレトリバーの仔犬だと思っているから、そんな風に周囲から思われているとは露知らず、なのだが。
「アンタが僕に襲われないように、だ。オメガのフェロモンは、ある意味アルファの理性を狂わすほど超越したものだろう? そもそも、オメガが全員アルファと番になりたいと思ったら大間違いなんだからな」
行儀が悪いとは思ったが、瑠輝は男に指を差しながら続けた。情けないことに、どんなに虚勢を張っても身長差故、顔は上を大きく向いたままだったが。
随分といけ好かない顔をしていた男も、瑠輝のこの調子に物珍しい珍獣を見たかのように目を細める。
「へぇ。中々、面白いことを言うオメガだな。オメガがアルファを襲う、だとは。こんなにも小さなオメガだというのに」
瑠輝の頭にそっと手を置くと、男はハハっと嘲笑う。それからすぐに手を戻し、自身の顎に手を置くと値踏みするように全身を眺めた。
「俺を襲ってみるか?」
明らかに楽しそうな口調で告げた男に、瑠輝はやはり自分がオメガだから馬鹿にされているのだと思い、大きな苛立ちを感じる。
「冗談。僕だって男だ。襲う相手くらい、自分で決める」
言い返した瑠輝は、やはりアルファは嫌いだと痛感してしまう。
全く世のオメガは、こんなにもいけ好かないプライドが高そうなアルファと、どうして番になりたいというのだろうか。
せっかく玉の輿に乗ったとしても、性格の不一致で一方的にアルファから番を解消されてしまったら、惨めな思いをするのは、不幸になるのは、間違いなくオメガだけだというのに。
「龍臣がオメガを保護したというから、心配して様子を見に来たが――全く、オメガらしくないオメガだな」
男の言葉に、心の中で瑠輝も「全くだ」と返す。間もなく十八を迎えようとしているのに、発情期が来ないなんて本当はオメガではなかったのでは。そう疑いの心さえ生まれていた。
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