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「オメガ保護法、第四十五条第二項。何びとたりとも、オメガの尊厳を傷付け、陵辱することは許されない。尚、その法令に反したことが明らかとなった場合、速やかにその者は以下の罰則を受けなければならない――」
威厳ある男の声が淀みなく流暢に、その文言をアルファたちの前で告げた。
瑠輝は、男が何を話し始めたのか分からず呆気に取られてしまう。
「クソっ」
瑠輝へ群がっていたアルファの男たちは、悔しそうにそう呟く。
男はその反応を眺め、ニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべた。
「栄えある自分の将来が惜しかったら、それは懸命な判断だ」
続けて男はそう言うと、アルファの男たちは 各々が脱ぎ散らかしていた制服を早急に身へ纏い、瞬時にそこから撤収した。
独りその場へ残された瑠輝は、どうして突然男たちが居なくなったのかを理解できず、困惑する。
「服を着ろ」
男は感情なき声でそう言った。
「えっ?」
未だに状況が呑み込めていない瑠輝は、戸惑いの色を見せる。
「ここはエリートアルファしかいない機関だが、所詮アルファはアルファだ。万一、オメガのお前が今ここで発情したら、それこそここで大事故が起きてしまう。さすがの俺でも、収められるかどうかは分からない」
淡々と男は告げた。
「⋯⋯つまり、男たちの相手をしなくてもいいって――そういうことか?」
男の言葉から全てを理解した瑠輝は、恐る恐る訊ねる。
否定も肯定もしなかったが、男は瑠輝が脱ぎ捨てた学ランを拾ってその手に渡す。
瑠輝は、男の意図することが本当に分からないと思った。
「でも、不法侵入の罰がどうとかって⋯⋯莉宇を繋ぎ止めたのは紛れもなく、ここのトップであるアンタだろ? “キングローズ”様?」
「よく、ここのことを知ってるんだな」
軽く男は嘲笑う。
「僕は全く知らない。ここのことも、今、アンタが何を考えて僕を助けてくれたのかも。否、もしかしたらアンタは僕を助けたつもりはないのかもしれないけど」
学ランを握り締め、瑠輝は隙を見せないよう男を睨みつけながら言った。
「法律に従ったまでだ」
男は瑠輝と一度も視線を合わすことなく、冷酷に告げる。
さすが、将来の国のトップ候補。
建前上は最下位であるオメガのことを気にかけつつも、実際には相手にさえしない存在なのだと言われているような気がした。
「でも、不法侵入の件は⋯⋯?」
遠回しだが、せっかく男が瑠輝を解放してくれると話しているのに、自らそれを蒸し返してしまう。
口走った後で、瑠輝は自身が何て馬鹿なのだと。
どうしてそんな言葉を口にしてしまったのだろうと、そう悔いる。
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