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屋上のフェンスに凭れ、瑠輝は昨夜スーパーで購入した、割引シールの貼られた菓子パンを頬張る。 外の高校へ入学した瑠輝には、シェルターからの昼食の補助がない。少ないバイト代から自らそれを賄っていたため、大概は安い菓子パン一つで済ませることが多かった。 「また今日も菓子パン一つかよ。成長期だっていうのに栄養取らないから、そんなちっさいままなんだよ」 いつも通り莉宇は呆れた口調でそう言うと、瑠輝へ自身の弁当箱を瑠輝の目の前へ差し出した。 「るせー」 わざと軽く莉宇を睨み、瑠輝は衣が綺麗につけられた唐揚げを一個摘む。 ヤンキーの見た目とは裏腹に、莉宇は毎朝自力で弁当を作るそうだ。そうでもしないと、瑠輝が栄養失調になってしまうからと笑って話す莉宇は、本当に優しくて、オメガの自分には勿体ないくらいの自慢の親友である。 だからこそオメガの瑠輝を想い、心配し、自らが犠牲になったのだと。そう分かってしまうから、何気ないこの莉宇の優しさが瑠輝にはとても辛かった。 唐揚げの油で濡れた指をペロリと舌で舐めると、瑠輝はそのまま立ち上がり、辛い顔した自身を莉宇へ目撃されないようフェンスの方を向く。 今日も朝から晴天で、二人の間を流れる昼の風はとても涼やかで心地好かった。 だからだと思う。 瑠輝はあんなにも悩んでいた三日前のことを、二週間前のことを口にできたのだと、思った。 「――あのさ、本当にゴメン⋯⋯」 ポツリと告げた瑠輝の言葉に、箸を持つ莉宇の手が止まる。 「僕のせい、とか思ってんだろ?」 弁当箱に蓋を被せながら莉宇はそう言った。 図星であった瑠輝はドキリと鼓動が揺れ、唇をきゅっと真一文字に結んだ。 「⋯⋯誰のせいでもないだろ。強いて言うなら、自分で蒔いた種のせいだな。自業自得ってヤツ」 クスリと笑う莉宇を見た瑠輝は、その笑みに本当はどんな意味が含まれているのだろうか、と思った。 すぐ隣りでガシャンとフェンスを掴む音がして、莉宇も瑠輝のすぐ隣りへ並んだことに気が付く。 「でも莉宇はあの日、僕が倒れていなかったら――本当は初恋の“龍臣”さんに逢うつもり、だったんだろ?」 「あの日」とは、瑠輝が莉宇に連れられ初めて蔓薔薇の要塞を潜った日のことだ。 「――そうだったな」 悲しそうに莉宇は言った。あの日、瑠輝には「幸せになって欲しい」と力強く話していたが、自身のことになるとどうしてそんなにも悲しい表情をするのだろうか。 「そうだったな、ってどういうこと?」 間髪入れずに瑠輝は言葉を返す。 すると、莉宇は瑠輝の質問へは答えず独り言のようにこう言った。 「どんなに過去に好きあってたとしても、一緒になる約束をしていたとしても、結局ベータは誰の番にも⋯⋯なれないんだ」 遠くを見つめる莉宇の瞳が大きく、切なく揺れ、瑠輝はそれ以上、掛ける言葉を失った。

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