34 / 139

3-5

――で、何でまたここへ来たんだ」 男と顔を合わせるのも、今回で三回目となる瑠輝。 驚くほどに、探す手間もなく瑠輝は蔓薔薇の要塞を出たところで男に捕獲され、すっかり馴染みのある白亜の洋館へと連れて来られていた。 聞けば、この洋館は代々“キングローズ”に指名された者に与えられる住処だという。 聞けば、この洋館は代々“キングローズ”に指名された者に与えられる住処だという。 オメガの瑠輝が初めてここを訪れ、倒れた時、この洋館へと保護されていたのは、この場所にはこの男以外誰も入ることを許可されておらず、アルファから身を護るためには最適な環境だとしたからだ。 今日はその洋館の広々とした応接間に通されていた。決して高校生の男子が独りで暮らしているとは思えない、むしろ中世の貴族が住んでいると言っても納得がいくアンティーク調の部屋である。 「二度も無事に外へ逃がしてやったというのに、また戻って来て。キミには、鳥の帰巣本能でもついているのか?」 白いブレザーが映える整った甘いマスクの男は、ベージュ色したベロア素材のソファへ腰掛けながら、眉間に大きく皺を寄せそう言い放つ。その向かいに、瑠輝は通されていた。 「⋯⋯確かめたいことがあったんだよ」 親友を蓑笠にするなんて、と内心瑠輝は思ったが、それでも莉宇のことは本当に心配だったため、嘘をついてはいなかった。 「確かめたいことだって? それ以前に、ここはキミのようなオメガが単独で乗り込んで良い場所じゃない。もし発情期が訪れたら、ここはアルファしかいないんだからどうなっても知らないぞ」 怖い顔して睨む男に、瑠輝はあっと息を呑む。 確かにここは、将来の超エリートアルファを育成する機関だ。そこへオメガが独り。狼の群れの中に、羊が一匹放り込まれているようなものである。 「分かってるよ。でも、確かめずにはいられなかったんだよ」 莉宇の初恋の人、“龍臣”さんのことと自身のこの胸の締め付けのことを。 「なぁ、アルファってやっぱ運命の番って誰だか⋯⋯分かるもんなのか?」 重厚なビクトリアン調の飾りが縁取られた長テーブルへ手をつき、身を乗り出しながら瑠輝は男へ迫った。 「さぁな。普通のアルファだったら分かる者もいるんじゃないのか。そもそも、ここにいる俺たちのようなアルファは、生まれた時からその相手は家同士で既に決められている。だから、そんな運命だとか番だとかくだらない都市伝説に振り回されている暇はない」 そう言って、男はさり気なく長い脚を組み直す。その仕草は嫌味なくとてもスマートで、不覚にも瑠輝は男へ見蕩れてしまう。 だがその裏で、超エリートアルファという立場も悲しいものなのだと瑠輝は思った。

ともだちにシェアしよう!