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莉宇が想う初恋の相手“龍臣”さんも、もしかするとこの男が今言った理由で、指環を嵌めていたのかもしれない。瑠輝はそう察知すると、報われないその想いに酷く胸が痛んだ。 「――その、超エリートアルファっていうヤツらは好きな相手と⋯⋯その、結婚、できないのか?」 恋や愛を信じない自分がこういうことを口にしているのは、非常に滑稽だと思った。 これは、莉宇のための確認。 あくまで自分のための確認ではないことを、瑠輝は自身へ言い聞かせた。 「いちいち感情に振り回されていたら、将来国のトップなど絶対に務まらない。ましてやそれを惑わす相手なんて、俺たちアルファにはいらない。足でまといなだけだ」 感情なく冷酷に吐き捨てた男の迫力に、瑠輝は緊張からぎゅっと全身へと力が込められる。 確かにそうなのかもしれないが。 そうかもしれないが、でも、と次いで瑠輝は思った。 「じゃあ、いらないってこと? ⋯⋯初恋とか、そういう感情は⋯⋯エリートアルファたちにとっては足でまといで、いらないもの⋯⋯なのか?」 酷く困惑しながら、瑠輝は一語ずつ確かめるよう口にした。 「いらないも何も、感情に振り回されたその先に、決して幸せな未来が待っているとは思えない」 そう言った男がほんの僅か、何処か遠く、諦めた表情を浮かべたことを瑠輝はその視界に認めてしまう。 王子様のような甘く煌びやかな顔に、諦めという名の一点の翳りが落ちる。 ほんの僅かの出来事であった。 よそ見をしていたら見逃してしまうほどの、ほんの僅かなこと。 瑠輝はそれを見逃さないでいた。 否、密かに男へ見蕩れていたお陰で瑠輝はその機微を見逃せなかったのである。 感情に振り回されたくないと、そう言った男の美貌を歪めた原因は、一体何であったのだろうか。 酷く瑠輝は気になってしまう。 「――だったら何で、そんな顔⋯⋯するんだよ?」 心の中の声が、思わず瑠輝の口をついて出る。 「そんな顔?」 間髪入れずに、男は驚愕の表情を浮かべた。 まるで、自身が翳りを見せていたことに一切気が付いていないような、そんな困惑にも近い面持ちであった。 その反応から、瑠輝は完全にあの男の表情が無意識に出たものなのだと察知し、それ以上口を噤む。 同時に、世間では勝ち組と言われ立場が違い過ぎると思っていた超エリートアルファにも、瑠輝たちシェルター暮らしのオメガのように何かしらの見えない大きな枷がそこにはあるのかもしれない。そう瑠輝は悟った。

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