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将来の国を背負う者のせいか、本当に手強い相手だと瑠輝は思った。 しかしここで怯んでしまったら、自分でも嫌っているオメガの本能を肯定してしまうようで、それも心底嫌だった。 「――本当に僕はそんなつもりなんてないんだ。オメガからの逆セクハラだと捉えられても仕方ないけど、ただ単純にアルファもアルファで背負っているものが悲しいんだな、って。その気持ちがつい、行動に出ただけだよ」 悔しさを滲ませ瑠輝はそう言うと、男の瞳がまた少し大きく見開いた。 「⋯⋯悲しい、誰が?」 自身に問い掛けるよう男は言った。 「誰って、アンタだよ。“キングローズ”様」 静かに瑠輝は返すと、こう続けた。 「僕はシェルター暮らしで、身内は誰もいない。と言うか、何処かにいるのかもしれないけどそれも知らない。幼い頃の記憶が一つも残ってないから、身内が迎えに来ない限り天涯孤独だ」 男の視線が黙って瑠輝へ注がれる。 「それと似てるって言ったら“キングローズ”様は怒るだろうけど、僕は自分のような境遇の子どもがこれ以上増えて欲しくなくて番がいらないんだ」 「別にお互いが愛し合って生まれてきた子どもだったら、オメガでも何でも問題はないんじゃないか?」 男は何を言っているんだ、といった表情で口を挟む。 「確かに。“キングローズ”様の言う通り、お互いが愛し合って生まれて――それで、子どももずっと愛され続けることができたら、ね」 悲しい笑みを浮かべ瑠輝は言った。 「でもさ、アンタは今さっき、僕に何て言ったか覚えてる?」 その言葉に、男は軽く首を捻る。 ああ、やっぱりこの男は罪悪感もなく先ほどの言葉を言ったのだ、と瑠輝は確信した。 「感情に振り回されたその先に幸せなんてない、って。そう、さっき僕に言っただろ? 優秀なアルファの元へ、恋や愛という感情に振り回されずに生まれてきたのが、結果僕のようなオメガだったらどうする?」 気が付くと瑠輝は男の胸倉を両手で軽く掴んでいた。 「高尚な“キングローズ”様だったら、たとえ家柄に傷がつくと分かっていてもオメガの子が生まれたら、シェルターになんてぶち込まないで大事に育てられるか? 愛のない相手との間に生まれた子を!」 感情的になるまいと自身に何度も言い聞かせていたが、最後には悲痛にも似た叫びを瑠輝は上げてしまう。 ぽろぽろと大粒の涙が流れ、瑠輝は目の前の男を睨んだつもりが、涙が溢れそれは叶わない。 ただ、涙で滲んだ向こう側で困惑した面持ちの男がこちらを見つめているようには見えた。

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