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「一方的にあれこれ言ってくれたけど、そもそも僕だってアルファと絶対に恋しないって決めてるんだ。それに僕はまだ、アンタの名前を知らない。まぁ、“アンタ”呼びのままで良いなら名乗らなくてイイけど」 瑠輝は軽く眉を寄せ、困りながらも気軽に笑って見せる。 本当は以前、莉宇から男の名前を聞き、朧気ながら知ってはいた。 だが、ここは敢えて知らないフリをする。散々、人の心にいらぬ波風を立てたのだから、これくらい知らないフリをしても何も問題はないはずだ。 同時に、嫌味なアルファ様への見方を少しだけ変えたせいだろうか。瑠輝は自身の気持ちが、ふっと楽になるのを感じていた。 「――煌輝、煌めくに輝く。星宮煌輝、だ」 何気なく告げた男の言葉に、瑠輝は言葉を失う。 名は体を表すではないが、この男は生まれた時からアルファの中のアルファになるべくして名前をつけられた本物の王子様なのだと悟る。 その上、“星宮”姓といえば政治に詳しくない瑠輝でもその名は聞いたことがある。現在の国政のトップを張る者の苗字だ。 もう全てが無敵の名前だと瑠輝は思った。 「煌めくに、輝く? 何それ。もう煌輝の親は、アンタが絶対にアルファだって確信してその名をつけたんじゃないか? 別の意味でキラキラネームだな」 煌輝の腕の中で、瑠輝は興奮気味で喋る。 「さぁ、どうだろう? 確かに俺の両親は、二人ともアルファ同士だからな。もしかすると、間違いなくアルファが生まれると確信していたのかもしれない」 悪気なくそう話した煌輝に、瑠輝はつい表情を強ばらせてしまう。 「なんか、すっげー自信家だな。煌輝の親御さんたちは」 棒読みで、だが許可なく煌輝の名前を呼び捨てで瑠輝は告げる。煌輝はその呼び方にも、その変化にも気がつくことなく言葉を返す。 「まぁ、代々“キングローズ”のアルファを輩出する家系だからな。否が応でも、そうなるだろう」 当然とばかりに話す煌輝に、瑠輝はそもそもの常識や考え方の基準に大幅な差異があることを知る。これは、少し話しただけでお互いすぐに埋まるものではないのだと。もう独りの当事者である煌輝は全くそれには気がついておらず、瑠輝の口からはこっそり溜息が出てしまう。 「確かにそれを聞いたら、恋だの愛だのって、そんなもので約束された未来を得体の知れない人間に壊されたくはないよな。もしかすると、それが命取りになるかもしれないってことだろ?」 あれほど煌輝が話していた言葉に納得のいかない瑠輝だった。それでも「確かに」と同意の相槌を追随してしまうほど、超エリートアルファの立場は大変なのだと言葉の本質から知る。

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