40 / 139

3-11

「ああ。アルファとして生まれてきた以上、将来を約束された“キングローズ”の肩書きは誰もが欲しがる最高峰のポストだ。だからその分、きな臭いことも日常的に往々として起こるから、絶対に誰にも隙は見せられない」 煌輝は真剣な口調でそう言ってから、ふと寂しそうな顔をして見せた。それから室内の何処か遠くを見ると、哀愁漂う笑みを浮かべ独り言のようにこう続けた。 「⋯⋯最も、隙を見せるようなほど取り乱す相手なんて――もうこの世にはいないんだけどな」 瑠輝はこの言葉に、はっと息を呑む。 感情に振り回されたくないと、煌輝が言った本音の部分には、そう言った意味も隠されていたのだと。 「何だよ、それ」 遠くを見ていた煌輝は、瑠輝の言葉で不意に視線をこちらへ戻す。 「何だよ、そんな話しを聞いたら僕とアンタ⋯⋯全然違うじゃん。同じとか言っちゃった自分、バカじゃん」 煌輝の腕の中で顔を真っ赤にしながら、瑠輝は言った。 ただ、頭が固い偉そうなヤツだと思っていた。 まさか過去に、煌輝が取り乱すほどの恋をしていた経験があるなんて。 しかも、その相手はもうこの世にいないだなんて。 自身の境遇から恋することを、否、アルファと番になることを最初から諦めていた瑠輝とは全く違う。 煌輝は、取り乱すほどの恋を経験した後に恋する感情を自ら捨てたのだ。 やはりこの男は、酸いも甘いも知った上での超エリートアルファなのだと思った。 偉そうにあれこれ言ってしまった自分を、瑠輝は酷く恥じる。 「――まぁ、信じられないのも仕方がない。この話は誰にもしたことがなかったからな」 苦笑しながら煌輝は言った。 「ウソ?」 「ホント、だ」 驚愕した瑠輝の視界へ入った煌輝は真顔で返す。 「どうしてそんな重要なことを僕に?」 飴色の瞳をまん丸にし、瑠輝は訊ねる。 「さぁ、どうしてだろうな? 自分でもよく分からない」 そう言って、とびきりの王子様スマイルを見せた煌輝に、瑠輝の心はドキリと大きく脈打つ。 「だけど、瑠輝もこのことを他の誰にも言うつもり、ないだろ?」 ファンサービスと言わんばかりに、キラキラしたオーラを放ちながら煌輝は問う。 神々しい煌輝を前にして、全く目の毒だ、と両手で顔を覆いながら瑠輝は何度もこくこくと頷く。 すると煌輝は、こう続けた。 「俺は瑠輝のことをそう信じているけど、でも――」 両手で顔を覆っていた瑠輝の手が、勢い良く煌輝の手で引き剥がれる。 露わとなったお互いの顔。 自然と緊張感が張り詰め、煌輝のマロン色した瞳と瑠輝の飴色した瞳が合致する。 綺麗な顔、綺麗な瞳の色。 じっと瑠輝は見つめていると、不意に煌輝の顔が自身へ迫る。 ――え? 飴色の瞳を大きく見開き困惑していると、初めての感触が瑠輝のその唇へと訪れた。

ともだちにシェアしよう!