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「ああ。アルファとして生まれてきた以上、将来を約束された“キングローズ”の肩書きは誰もが欲しがる最高峰のポストだ。だからその分、きな臭いことも日常的に往々として起こるから、絶対に誰にも隙は見せられない」
煌輝は真剣な口調でそう言ってから、ふと寂しそうな顔をして見せた。それから室内の何処か遠くを見ると、哀愁漂う笑みを浮かべ独り言のようにこう続けた。
「⋯⋯最も、隙を見せるようなほど取り乱す相手なんて――もうこの世にはいないんだけどな」
瑠輝はこの言葉に、はっと息を呑む。
感情に振り回されたくないと、煌輝が言った本音の部分には、そう言った意味も隠されていたのだと。
「何だよ、それ」
遠くを見ていた煌輝は、瑠輝の言葉で不意に視線をこちらへ戻す。
「何だよ、そんな話しを聞いたら僕とアンタ⋯⋯全然違うじゃん。同じとか言っちゃった自分、バカじゃん」
煌輝の腕の中で顔を真っ赤にしながら、瑠輝は言った。
ただ、頭が固い偉そうなヤツだと思っていた。
まさか過去に、煌輝が取り乱すほどの恋をしていた経験があるなんて。
しかも、その相手はもうこの世にいないだなんて。
自身の境遇から恋することを、否、アルファと番になることを最初から諦めていた瑠輝とは全く違う。
煌輝は、取り乱すほどの恋を経験した後に恋する感情を自ら捨てたのだ。
やはりこの男は、酸いも甘いも知った上での超エリートアルファなのだと思った。
偉そうにあれこれ言ってしまった自分を、瑠輝は酷く恥じる。
「――まぁ、信じられないのも仕方がない。この話は誰にもしたことがなかったからな」
苦笑しながら煌輝は言った。
「ウソ?」
「ホント、だ」
驚愕した瑠輝の視界へ入った煌輝は真顔で返す。
「どうしてそんな重要なことを僕に?」
飴色の瞳をまん丸にし、瑠輝は訊ねる。
「さぁ、どうしてだろうな? 自分でもよく分からない」
そう言って、とびきりの王子様スマイルを見せた煌輝に、瑠輝の心はドキリと大きく脈打つ。
「だけど、瑠輝もこのことを他の誰にも言うつもり、ないだろ?」
ファンサービスと言わんばかりに、キラキラしたオーラを放ちながら煌輝は問う。
神々しい煌輝を前にして、全く目の毒だ、と両手で顔を覆いながら瑠輝は何度もこくこくと頷く。
すると煌輝は、こう続けた。
「俺は瑠輝のことをそう信じているけど、でも――」
両手で顔を覆っていた瑠輝の手が、勢い良く煌輝の手で引き剥がれる。
露わとなったお互いの顔。
自然と緊張感が張り詰め、煌輝のマロン色した瞳と瑠輝の飴色した瞳が合致する。
綺麗な顔、綺麗な瞳の色。
じっと瑠輝は見つめていると、不意に煌輝の顔が自身へ迫る。
――え?
飴色の瞳を大きく見開き困惑していると、初めての感触が瑠輝のその唇へと訪れた。
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