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一度目より二度目、そして三度目の今の方が色濃く薫る甘き薔薇の香り。 単純に瑠輝は、煌輝と過ごした時間の長さがその香りの濃さを物語っているのだと思った。 それでも瑠輝はそれをあえて口にすることなく、その先の言葉を視線のみでじっと水城へと促す。 「もう間もなく、ということだ」 瑠輝からの視線を受けて、水城はそう一言口にした。 「もう、間もなく? ⋯⋯何が、ですか⋯⋯?」 何、の部分を聞くのが怖い。本能的にそう思ったが、恐る恐る瑠輝は訊ねた。 「瑠輝の、初めての“発情期”だ」 「――え? 僕の、“発情期”?」 水城の発言に、匂いからそんなことが分かるのかと瑠輝は思った。 「ああ。これは知っておいて損はない、オメガ特有の身体の仕組みだ」 六年もの間、シェルターで瑠輝は暮らしていたが、発情期を迎えるオメガのそのような身体的特徴は聞いたことがなかった。 「だが、これが世に広く知れ渡ると、ヒートのオメガを悪い方へつけ狙うアルファたちが今以上に増える可能性が高い。だから、性犯罪防止のため、敢えてその但し書きは教科書には載っていない」 そう言うと、水城は瑠輝の首筋へ鼻を押し付け、そのままそこへ顔を埋めた。 「水城、せん⋯⋯せ?」 どうしてそんなことをするのだろうと、瑠輝は困惑した。 「ベータの私でも分かる、次第に強くなっていく甘い匂い。間違いなく瑠輝のフェロモンが初めての発情期に向け、確実にその放出が始まっている。つい先日までそんな面影すらなかったお子様だったというのに。⋯⋯いったい、この数週間で何があった?」 シェルターから外へ出る際、必ず瑠輝が身に着けているネックプロテクターを、綺麗に爪が切り揃えられた水城の指先が、顔を埋めたまま、その形を辿るようにゆっくりひと撫でした。 「そう言えば瑠輝は小さい頃からよく、薔薇の香りを嗅ぐと胸が苦しくなる、そう言っていたな」 水城はその首筋から顔を上げると、獲物を捕らえた獣のように、瑠輝をその鋭い視線と言葉のみで少しずつ壁際へと追い詰めていく。 「だが今は、瑠輝を苦しませていたはずのその薔薇の香りが瑠輝からする。⋯⋯胸の痛みは、大丈夫なのか?」 如何にも心配しているぞと言葉では告げていたが、水城のその顔は全く笑っておらず、瑠輝は恐怖しか感じ得ない。 同時に、幼かった頃の水城に何でも話していた無邪気な自分を、瑠輝は酷く恨んでいた。 「――大丈夫、です」 咄嗟にその場を取り繕う言葉が、瑠輝の口をついて出る。 「本当か?」 酷く念を押す水城に、瑠輝は二度、素早く頷いた。 本当は、まだ平気ではない。未だに、胸の痛みは薔薇の香りへ呼応するように継続している。 しかし煌輝と出逢い、どういう訳か彼が傍にいることで、不思議とその痛みを感じることはなくなった。瑠輝は今日、ちょうどそのことに気が付いたばかりであった。

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